治療用インソール(足底装具)に向いていない靴5選|義肢装具士が選ぶ基準を解説
外反母趾や扁平足、開帳足、足底筋膜炎、シーバー病などで足の裏や踵に痛みが出た際、病院で処方される治療用インソール(足底装具)は、私たち義肢装具士が「靴に入れて使う前提」で作っています。
そのため、インソール単体ではなく靴とセットで運用するのですが、そもそもインソールを入れるのに向いていない靴が存在します。具体的には以下の5つです。
- サンダル
- パンプス
- ヒールが高い靴
- 元々ついている中敷きが外せない靴
- ベアフットシューズ・ゼロドロップシューズ
これらの靴は、踵(かかと)がない、アッパー(甲を覆う部分)の面積が狭い、インソールを入れる容量が足りない、あるいは靴の設計思想そのものがインソールと噛み合わないといった特徴があります。
インソールを使っていて痛みなどのトラブルが出た際、不向きな靴に入れていると「靴が悪いのか、作ったインソールが体に合っていないのか」を義肢装具士側で判断するのが難しくなり、調整に余計な時間がかかります。
これから挙げる5つの靴を避けるだけで、インソール使用時のトラブルは大幅に減らせます。
1. サンダル類(インソール対応品を除く)
一般的なサンダルにはインソールを入れて使えません。
理由は単純で、靴側にインソールを固定する部分がないからです。固定する機能がなければ、歩いたときにインソールごと足からすぽっと抜けます。仮に抜けなかったとしても、足とインソールの密着度が低く本来の効果が出ません。それどころか、インソール側で補正した内側縦アーチと自分の土踏まずの位置がズレて、かえって痛みの原因になります。
ただし、市販品や装具メーカー品の中には「インソールを入れる前提」で作られたサンダルも存在します。サンダルタイプはどうしても靴に比べて脱ぎ履きが圧倒的に楽なので、屋内でインソールを使いたい場合などは、そういった専用サンダルを選ぶのもありです。
2. パンプス系の靴
パンプスも、インソールを入れる靴としては全く向いていません。
足の甲が広く開いているデザインのため、インソールと足を固定する力が弱く、インソールを入れると歩いたときに踵が脱げます。
そもそもパンプスは長距離を歩くための構造をしていません。足の痛みを治療する目的でインソールを使うなら「その靴はダメです」とはっきりお伝えしています。
インソールを入れて履くなら別の靴種に変えてください。
3. ヒールが高い靴(ハイヒール)
パンプスと同じような理由ですが、ヒールが高いデザインの靴もインソールには不向きです。
ヒールが高い靴を履くと、足は常につま先立ちと同じ状態になり、前足部に強い負担がかかります。足のトラブルを治し、負担を減らすためにインソールを処方しているのに、わざわざ負担がかかるデザインの靴を履くのはNGです。
インソールを使うなら、一般的なスニーカーと同じくらいのヒールピッチ(前後の高低差)の靴をおすすめします。
現場では「じゃあ、ヒールが低いパンプスならどうなの?」と聞かれることもありますが、先ほど書いた通りパンプスという形状自体が固定力不足でおすすめできないため、ヒールの有無にかかわらず避けてください。
なお、内反尖足などで、あえて踵を高く補高する特殊なケースは例外です。足部の内反傾向が強い場合は、インソールを入れて、内反によって痛みが出やすい第5中足骨底(小指の付け根あたり)を除圧することもあるため、むしろインソールが有効に働きます。
4. 中敷きが外せない靴
元々ついている中敷きが接着されていて外せない靴もおすすめしません。
理由はシンプルで、足を入れる隙間がなくなるからです。元々入っている中敷きの上から治療用インソールを重ねて入れるわけですから、当然、靴の中の空間が減ります。狭くなったところに足をねじ込むことになるので、特に足の甲に強い圧迫感や不快感が出ますし、そもそも足が入らず靴が履けないという問題も起きます。
靴を買う前に、中敷きが外せるかどうか必ず確認しましょう。
5. ベアフットシューズ・ゼロドロップシューズ
最近「足にいい靴」として話題のベアフットシューズやゼロドロップシューズですが、ここに治療用のインソールを入れるのはおすすめしません。
これらの靴は、「現代の靴は足を保護・補正しすぎるせいで、足本来の機能が弱っている」という問題意識から開発されたものです。足の裏への物理的な補正を減らし、足本来の機能を取り戻してより健康になろう、という思想で作られています。
一方、私たちが作る治療用のインソールは、足の裏を物理的に補正して負担を減らすものです。
言い換えれば、
健康な人がより強く健康になるために履くのがベアフットシューズであり、
痛みやトラブルを抱える人が治療のために使うのがインソールです。
つまり、靴とインソールで目指している方向が真逆なんですね。
私個人としては、ベアフットシューズと治療用インソールを組み合わせることで相乗効果が起き、足の調子がもっと良くなるとは考えていません。
物理的にインソールを入れてベアフットシューズを履くこと自体は可能ですし、ベアフットシューズ自体が悪いわけでもありません。ただ、治療用インソールを入れると、靴本来の「素足感覚で鍛える」という機能が消えてインソールの補正効果だけが残るため、わざわざベアフットシューズを選ぶ意味がなくなります。
痛みなどのトラブルがある時期は、インソールを入れた一般的なスニーカーで活動して足を休ませ、調子が良くなったらベアフットシューズを履いてまた鍛え直す、という使い分けをおすすめします。
靴選びで迷ったら「紐・踵の芯・中敷きが外せるか」の3点を見る
治療用インソールを入れて使うなら、今回挙げた5つの靴は避け、以下の条件を満たす靴を選んでください。
- 靴紐(またはベルト)で甲をしっかり固定できる靴
- 踵にしっかりとした芯材(ヒールカウンター)が入っている靴
- 元々の中敷きが外せる靴
いわゆる大手スポーツメーカーの一般的なスニーカーであれば、大体問題なく使えます。手持ちの靴にインソールを入れていいか迷ったときは、まず「中敷きが外せるか」「踵を踏んだときに潰れない硬さがあるか」の2点だけでもチェックしてみてください。
インソールを作ったあとに新しい靴を買うコツ
病院でインソール(足底装具)を作ったあと、2足目以降の新しい靴を買い足すときのコツはシンプルです。「作ったインソールを店に持っていき、試着するときにその場で入れて履く」。これに尽きます。
ABCマートなどの靴屋でニューバランスやナイキ、スケッチャーズなどを試着する際、店員さんに断って元の中敷きを外し、自分のインソールを靴に入れて履いてみてください。
「元の中敷きがちゃんと外せるか」「自分のインソールを入れた状態で窮屈すぎず履けるか」という一番の懸念点を、買う前にその場で確認できます。新しい靴を買うときは、必ず実物を持っていくひと手間を挟んでください。論より証拠です。
なぜ病院では「靴」までセットで用意してくれないのか
ここまで「靴選びが大事だ」と書いてきましたが、残念ながら私たち義肢装具士は、靴を販売する専門業者ではありません。
靴の在庫を抱えたり発注したりすることは、本来の義肢装具士の業務範囲とは別です。装具製作所が会社として、「靴の販売」に取り組んでいる場合のみ、その病院に出入りしている義肢装具士から、靴と治療用インソールをセットで案内できます。
ただ、これはあくまで治療に付随したビジネスです。靴まで扱うかどうかは、担当する義肢装具士個人の判断ではなく、所属している企業や病院の方針に左右されます。「あの病院(担当者)は靴まで用意してくれたのに、ここはインソールだけだった」という差が往々にして生まれるのは、こうした裏事情があるからです。
要は、病院で製作する治療用インソールは、それを入れる「靴」についてはユーザー自身にお任せする形になるのが大半だということです。私たち現場の義肢装具士としては、インソールの効果を正しく引き出すための靴選びの方法論をお伝えし、あとは皆さん自身で実践してもらうしかない、というのが実情だったりします。
それでは、また。
