義足の製作が始まると、「ソケット」や「ライナー」といった聞き慣れない言葉がたくさん出てきます。
でも、いざ自分で調べようと思っても、ネットには意外と詳しい情報が載っていなかったりしませんか?
私たち義肢装具士(PO)は、つい専門用語を当たり前のように——時には得意げに早口で——話してしまいがちですが、その言葉がユーザーさんに浸透しておらず、置き去りにしてしまっているケースも少なくありません。
特に、「仮義足」や「訓練用義足」、「本義足」といった呼び方の使い分けは非常に複雑で、現場でも混乱を招きやすいポイントです。
言葉の意味が曖昧なままだと、製作の打ち合わせで困るだけでなく、義足に関わる各種制度申請時に誤解が生まれ、手続きがストップしてしまうことさえあります。
そこでこの記事では、教科書的な定義だけではなく、「現場で本当に必要な義足の用語」をわかりやすく解説します。
これから義足を作るユーザーさんはもちろん、書類を受け取る窓口の担当者の方も含め、関わる全員が誤解なくスムーズに手続きを進められるよう、POが「用語の解説」を行います。
1. まずは「呼び方」を整理しよう
まず結論から言うと、義足には大きく分けて2つの呼び方があります。これらは「いつ」「どの制度で」作るかによって名前が変わります。
① 仮義足(=訓練用義足)
- いつ: 手術直後〜リハビリ期間
- 制度: 健康保険(治療用装具)
- 目的: 歩く練習をするため
「仮義足」と「訓練用義足」は全く同じ意味です。 治療の一環として作られるため、病院で処方され、製作します。
② 本義足(=更生用義足)
- いつ: 退院して生活が始まってから
- 制度: 障害者手帳(補装具費支給制度)
- 目的: 日常生活で使い続けるため
「本義足」と「更生用義足」も全く同じ意味です。 こちらは治療ではなく「福祉」の制度を使うため、役所での手続きが必要になります。
2. 「仮」と「本」の決定的な違い
一番大切なポイントをお伝えします。
「モノ(製品)としての違いはありません」
「仮だから簡易的な作り」「本だからしっかりとした作り」というわけではないのです。あくまで「お金の出どころ(保険か、福祉か)」によって呼び名が変わるだけ、と覚えておいてください。
チェックソケットについて

※注意:チェックソケットは別物 透明なプラスチックのソケットを見ることがありますが、あれは「チェックソケット」という仮合わせ用の道具です。「仮義足」のことではありません。
3. 義足の構成パーツ
用語と合わせて、義足がどんなパーツでできているかも知っておきましょう。
一般的な「ライナー式」の構成です。
① ソケット

実際に断端(切断した足)が入る、義足で最も重要な部分です。
- 役割: 体重を支える、足を懸垂する
- 種類: PTB、TSB、IRCなど様々な理論や形状がありますが、基本的には「足を入れる器」と認識して頂ければ問題ありません。
- 特徴: このパーツだけは、義肢装具製作所がイチから製作(オーダーメイド)します。
② ライナー

断端に直接履く、靴下のような形をしたカバーです。近年は、まずライナーを履いてから義足を装着するスタイルが主流です。
- 材料: シリコンやコポリマーなどの柔らかい素材
- 役割:
- 硬いソケットと足の間に入り、クッション(緩衝材)になる
- 先端にピンを取り付け、義足が抜けないようにする(懸垂)
- 特徴: 様々なメーカーから販売されており、パーツとして仕入れます。
③ 継手(つぎて)

関節の代わりとなるパーツです。特に太ももから切断した方(大腿義足)の場合、膝の代わりとなる「膝継手(ひざつぎて)」が必要になります。
- 種類と機能: 製品によって性能が大きく異なります。
- 機械的な摩擦で制御するもの
- 油圧や空圧で滑らかに動くもの
- 座る時だけ手動で曲げるもの
- マイコン(コンピューター)が搭載され、歩く速度を自動制御するもの
④ 構造パーツ

ソケット、膝継手、足部を連結するためのパイプや金具のことです。
- 材料: ステンレス、チタン、アルミなどの金属製
- 役割: パーツ同士を繋ぐ、長さや角度を調整する
⑤ 足部(そくぶ)

地面に接地する、足の形をしたパーツです。
- 材料: カーボン、ガラス繊維、ウレタンなど
- 役割: 地面からの衝撃を吸収したり、バネの力で前に進む推進力を生み出したりします。
- 特徴: 製品によって「反発力」や「重さ」が全く違うため、活動レベルに合わせて選びます。
【製作のポイント】 「ソケット」は義肢装具士がお客様に合わせて製作し、「それ以外のパーツ(ライナー・継手・足部など)」はメーカーから仕入れて組み上げる、というのが義足製作の基本スタイルです。
4. 義足ができるまでの「制度のルート」
ここが一番複雑で、皆さんが迷うポイントです。 「健康保険で作ってから、障害者手帳に切り替える」という一般的なルートを、時系列で解説します。
ステップ1:病院での製作(訓練用義足)
まずは病院に入院中、「訓練用義足(仮義足)」を作ります。
- 医師の処方で製作開始。
- 代金を一旦立て替え払いし、健康保険へ申請。(※義肢装具士の番号入り領収書などが必要)
- リハビリを行い、退院を目指します。
ステップ2:手帳の取得と申請
退院が決まったら、「身体障害者手帳」を取得します。
- 退院後、住民票がある市町村の「障害福祉課」へ行く。
- 手帳を提示し、「義足の新規製作」を申請する。
ステップ3:判定と製作(更生用義足)
ここからは福祉の制度に切り替わります。
- 「更生相談所」という県の機関で判定を受ける。(※自治体により方法は異なる)
- 許可が出たら、製作所で「更生用義足(本義足)」を作る。
- 完成後、再び更生相談所で「適合判定(チェック)」を受ける。
- 「適合よし!」となれば、手続き完了。
【重要】 「病院では保険、退院後は手帳(福祉)」この2段階の切り替えがあることだけ覚えておけばOKです。
本義足の製作手順についてはこちらの記事でまとめています。
5. よくある質問(FAQ)
手続きの中でよく聞かれる疑問をまとめました。
Q. 仕事中の怪我(労災)の場合は?
A. 流れは基本同じですが、窓口が変わります。 健康保険や市町村ではなく、会社の管轄である「労働局」が申請先になります。
Q. 更生用義足が壊れたら?
A. 役所の「障害福祉課」に修理申請をしてください。 体の変化で作り替える場合も同様に申請が必要です(更生相談所の判定が必要なこともあります)。
Q. 訓練用義足を作らず、いきなり更生用義足は作れる?
A. 更生相談所の判断次第です。 「訓練用から更生用までどれくらい期間が必要か?」「違うパーツは使えるか?」といった疑問も、すべて自治体(県や市町村)の判断となります。まずは役所の窓口に相談しましょう。
Q. 訓練用義足(最初の義足)は修理できる?
A. 原則、できません。 健康保険制度は「1回限り」が基本です。修理や2本目の製作に保険は使えません。退院後は速やかに障害者手帳の制度(更生用義足)へ移行してください。
その他、義足と仮義足の違い、用語の解説、そして義肢装具士として私個人が、仕事中に普段回答しているよくある質問をまとめた記事はこちら
まとめ
最後に、これだけは持ち帰ってほしい6つのポイントです。
- 「訓練用=仮義足」(同じ意味)
- 「更生用=本義足」(同じ意味)
- 名前の違いは「制度の違い」でしかない
- チェックソケットは仮義足ではない
- 入院時は「訓練用」退院後は「更生用」として義足を製作する。
- 退院後は更生用義足を修理・交換して生活する。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。それではまた。
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