義肢や装具を製作する際に必ず関わってくるのが「補装具費支給制度」です。
健康保険を使うのか? 障害者手帳を使うのか? 生活保護ではどうなるのか? 労災や自動車事故の場合は? そして介護保険とは関係があるのか?
制度は存在していても、関係者でさえ迷うことが少なくありません。この記事では制度の全体像を整理し、「どの制度がどう関わるのか」「優先順位はどうなっているのか」を解説します。
対象は、義肢装具を利用するご本人やご家族、医療従事者、ケアマネジャーなど。この記事を読むことで、制度の主な仕組みやお金の流れ、ケースごとの考え方が理解できるようになります。
※各制度の申請手続きや必要書類の詳細は別記事に譲り、ここではあくまで「お金の流れ」に絞って解説します。
制度の全体像について
まずは補装具費支給制度の全体像について解説します。
ここでは主に、義肢装具を新規に製作する場合の制度パターン を紹介します。
結論から言えば、制度には優先順位があり、
👉 治療用装具での製作が先、その後に更生用装具へ移行するのが基本の流れ です。
義肢装具と介護保険の関係
まず最初に、よく質問を受ける点について。
結論から言うと、義肢装具と介護保険は直接関係ありません。
介護保険制度の中にも「補装具」という言葉は出てきますが、それは介護用品の範疇であり、義肢装具は含まれていません。
義肢装具に関わるのは、主に以下の制度です。
- 各種医療保険制度(健康保険、国保、後期高齢者など)
- 労災保険制度
- 障害者総合支援法(身体障害者手帳に基づく制度)
- 生活保護法
- 自動車事故の自賠責保険や任意保険
治療用装具と更生用装具
補装具費支給制度を理解する上で最も重要な要素が、治療用装具と更生用装具の区別です。
呼び名の違い
- 治療用装具:治療を目的に製作する装具
- 更生用装具:残った障害に対して補償・生活支援を目的に製作する装具
装具そのものの構造が変わるわけではなく、適応される制度で名前がかわるだけです。
具体例
- 健康保険・労災の治療制度・自動車保険の補償・生活保護法を用いて製作 → 治療用装具
- 労災の補償制度・障害者総合支援法(手帳制度)を用いて製作 → 更生用装具
義足も同様で、治療のために作るのは「訓練用義足(治療用)」、残存障害に対して作るのは「更生用義足」です。
👉 覚え方はシンプルに:
- 治療目的・医療保険 → 治療用装具
- 障害補償・手帳制度 → 更生用装具
治療用装具のお金の流れ
治療用装具は 償還払い方式 が基本です。
- 利用者が一旦 10割を業者に支払う
- その後、保険者へ申請し還付を受ける
自己負担と還付の例
- 健康保険(3割負担の場合) → 7割が返金
- 子ども医療費助成制度 → 自己負担なし
- 労災 → 10割返金(実質自己負担なし)
- 生活保護 → 「治療材料券」に基づき製作、自己負担なし
- 自動車事故 → 自賠責や任意保険から費用が出ることもある(保険会社との調整が必要)
👉 覚え方:「治療用装具は一度10割払って、あとから戻ってくる」
更生用装具のお金の流れ
更生用装具は 代理受領方式 です。
- 利用者は自己負担金(原則 1割)だけを支払う
- 残りは自治体から業者に直接支払われる
- 自己負担額には上限があり、所得に応じて軽減措置もある
製作の流れ(概要)
- 市町村に申請
- 更生相談所で判定
- 義肢装具会社が見積提出
- 許可後に製作
- 完成後に適合判定
- 利用者は自己負担金を支払うのみ
👉 利用者にとっては「自己負担分だけで済む」というメリットがある
制度ごとの比較表(簡易版)
| 制度 | 呼び名 | 支払い方式 | 自己負担 | 特徴 |
| 健康保険 | 治療用装具 | 償還払い | 1~3割 | 一旦10割払い、後日還付 |
| 労災(治療) | 治療用装具 | 償還払い | なし | 全額補償 |
| 労災(補償) | 更生用装具 | 代理受領 | なし | 障害補償の一部 |
| 障害者総合支援法 | 更生用装具 | 代理受領 | 原則1割 | 所得に応じて上限あり |
| 生活保護 | 治療用装具 | 材料券 | なし | 自己負担ゼロ |
| 自動車事故保険 | 治療用装具 | ケースによる | 個別対応 | 保険会社との調整次第 |
制度の優先順位
ここで重要なのが 制度の優先順位 です。
一見すると「負担が少ない更生用装具を最初から利用すればいいのでは?」と思われがちですが、それはできません。
制度には優先度が定められており、より上位の制度を優先的に使う必要があります。
優先順位(基本)
- 労災 → 医療保険 → 自動車保険など「治療用」にあたる制度
- 障害者総合支援法(身体障害者手帳による更生用装具)
つまり、いきなり障害者総合支援法で装具を作ろうとしても「まずは治療用装具で作ってください」と判定されます。
義足でも同じで、「訓練用義足を経て → 更生用義足」という流れを踏まないと申請が通りません。(例外もありますがごく少数)。
ここまでのまとめ
- 義肢装具に関わる制度は複数あり、介護保険とは無関係
- 「治療用装具」と「更生用装具」は装具の違いではなく、費用負担制度の違い
- 治療用装具:一旦10割払い → 還付
- 更生用装具:1割自己負担のみ → 代理受領
- 制度には優先順位があり、まずは治療用 → その後に更生用という流れが基本
制度の優先度的にまず健康保険が優先されるため、更生用装具の制度は最初からは使えないことが、ポイントになります。
装具が壊れたら?作り変え・修理にまつわる制度の仕組み
ここまでは、装具を新しく作るときの制度の全体像について紹介しました。
しかし実際には、装具や義足を長く使っていると、破損したり、体の状態に合わなくなるなどで、修理や作り変えが必要になることがあります。
「修理は自己負担なのか?」
「作り変えるときは、また健康保険を使うのか?」
「制度を使って再度作る場合、どのくらいの期間が必要なのか?」
こうした疑問は、利用者や家族だけでなく、医療従事者やケアマネからもよく聞かれるものです。
👉 結論から言えば、修理も作り変えも補装具費支給制度の対象です。
ただし「どの制度を使えるか」「どのタイミングで作り変えが認められるか」は条件があり、理解しておくことが大切です。
修理の扱いについて
ベルトやマジックテープの破損、靴底の交換、プラスチック装具の滑り止め交換といった修理は、各種補装具費支給制度でカバーされます。
- どの制度を使うかは、製作時に使った制度で決まる
健康保険で製作した装具なら修理も健康保険。手帳制度で製作した装具なら修理も手帳制度です。 - 申請の流れは新規製作と同じ
健康保険の場合は医師の処方が必要。
障害者総合支援法や労災の場合は、役所や労災への申請が必要になります。
義肢装具の作り変えについて
治療用装具を作り変える場合
コルセットを長年使って作り直す、足底装具が古くなったので新しくする――このようなケースは、基本的に健康保険制度内での作り変えになります。
理由はシンプルで「残存障害の補償」ではなく「治療の継続」とみなされるからです。
治療用から更生用に移行する場合
代表的なのは義足です。
健康保険で作れる訓練用義足は原則1本。その後に作る義足は、すべて更生用義足(障害者総合支援法)として製作します。
装具でも同様のケースがあります。
例えば脳卒中後の麻痺に対して、入院中は健康保険で治療用装具を作り、生活期に入ってからは障害者手帳をもとに更生用装具を作るという流れです。
更生用装具を作り変える場合
一度手帳制度で作った場合は、基本的に以降も更生用装具として作り変えます。
ただし、身体の状態に大きな変化があり、医師が「治療が必要」と判断した場合には、改めて健康保険で治療用装具を作るケースもあります。
労災の場合は?
労災で装具を作った場合は、労災制度の中で完結します。
最初は労災の治療制度を使い、その後は補償制度に移行します。
注意すべきは、労災には「巻き戻し」がないこと。
一度治療から補償へ移行したら、基本的には障害者手帳制度には戻れず、労災制度を優先して利用する形になります。
申請方法について
修理や作り変えの申請方法は、新規製作時と同じ流れです。
- 健康保険 → 医師の処方箋をもとに、利用者が一旦全額を立て替えて償還払い
- 更生用装具 → 役所に申請し、判定を経て代理受領
- 労災 → 労災保険制度を通じて申請
修理と作り変えのまとめ
- 修理も作り変えも制度でカバーされる
- 使える制度は「最初に作った制度」で決まる
- 治療用装具は治療用として作り変え、更生用装具は更生用として作り変えるのが原則
- 治療用から更生用への移行は「後遺症や切断などの障害が認められた場合」に限られる
- 労災は制度内で完結し、巻き戻しはない
👉 要するに、修理や作り変えも「作ったときの制度」に従って対応されるというのが原則です。その上で治療から更生への移行や労災の特殊ルールを理解しておくことが大切です。
具体的な例でみてみよう
ここからはケースごとに、実際にどの制度が使われるのかを紹介します。私自身が現場で遭遇したケースをベースにまとめています。
治療用装具として製作するケース
病院で処方され、義肢装具士が採寸・採型・適合を行ったケースの99.9%は 治療用装具 です。
代表的な例
- 脊椎の圧迫骨折 → コルセット
- 足の捻挫 → 短下肢装具(軟性)
- 足底筋膜炎 → 足底装具
- 脳卒中後の片麻痺 → 歩行訓練用下肢装具
制度の振り分け
- 自動車事故 → 自動車保険から支給(請求方法は事例ごとに異なる)
- 労災事故 → 労災保険を使用(償還払いで一旦立て替えが必要)
- 上記以外の病気や怪我 → 健康保険を使用(償還払い)
- 生活保護 → 医師の処方をもとに「治療材料券」が発行され、自己負担なし
👉 下腿切断後に歩行訓練用義足を製作するケースも同様で、事故なら自賠責や任意保険、労災なら労災保険、それ以外なら健康保険を使います。
更生用装具・義肢を製作するケース
義足の例
訓練用義足は原則1本までが健康保険の対象。
その後に製作する義足は、すべて更生用義足(障害者総合支援法)として作られます。
装具の例
脳卒中後の麻痺などで、治療用装具を用いてリハビリを行った後、生活期に入ってから障害者手帳を使って更生用装具を製作します。
制度ごとの扱い
- 労災 → 治療用で作った後は補償制度に移行。以降は更生用として製作。
- 医療保険 → 治療用装具で製作後、後遺症が残った場合は更生用装具へ移行。
- 自動車保険 → 残存障害の補償範囲は保険内容により異なる。手帳制度を使う場合もある。
- 生活保護 → 治療用装具の後に残った障害がある場合は、更生用装具を利用。
生活保護制度を利用するケース
生活保護を受給している場合は、医師の処方に基づき 治療材料券 が発行され、自己負担なしで装具を製作できます。
👉 注意点:
健康保険と生活保護が併用されるケースでは、健康保険で7割、生活保護で3割を負担する形になり、7割分は償還払いで一時立て替えが必要になる場合があります。
子ども医療・高額療養費制度との関係
- 子ども医療
健康保険で7割還付された後、残り3割を子ども医療に申請して再度還付を受けられます。重症心身障害や難病医療も同様で、基本は「健康保険+補助制度」の組み合わせです。 - 高額療養費制度
自己負担分のみが医療費としてカウントされます。
例:10万円の装具 → 自己負担が3割なら3万円のみが医療費控除対象。
作り変えまでの期間について(耐用年数)
義肢装具には「耐用年数」という考え方があります。
- 更生用義肢装具:耐用年数が設定され、期間を経過するまでは原則更新できません。ただし破損や身体状況の変化があれば、更生相談所の判定で再製作可能です。
- 治療用装具:耐用年数は厳格ではなく、保険者判断で必要性が認められれば期間内でも作り変えが可能なケースもあります。
👉 ポイント:前回の製作日を記録しておくこと。申請の可否に大きく関わります。
ここまでのまとめ
- 治療用装具のケース
圧迫骨折でのコルセット、捻挫での短下肢装具軟性、足底装具、脳卒中後の下肢装具など → 基本は健康保険。
ただし、自動車事故なら自動車保険、労災なら労災、生活保護なら治療材料券を使用。 - 義足(訓練用義足)のケース
最初の義足は治療用として健康保険や労災、自賠責が適用。
その後の義足は原則すべて更生用義足(手帳制度)で製作。 - 更生用装具のケース
脳卒中後の麻痺など、治療期を経て生活期に入った後は更生相談所の判定を受けて製作。
残存障害への補償という意味で、更生用へと切り替わる。 - 労災のケース
労災事故で作った装具は労災制度内で完結。治療から補償へ移行し、手帳制度には戻らない。 - 生活保護のケース
医師の処方を受けて治療材料券を発行し製作。自己負担はなし。残存障害に対する装具は更生用で対応。 - 子ども医療や高額療養費制度
健康保険で支払った自己負担分を、さらに子ども医療や難病医療、高額療養費制度で還付・軽減できる。 - 耐用年数の考え方
更生用義肢装具には耐用年数が設定され、原則は経過後に更新。ただし破損や身体の変化があれば前倒しで製作可能。
治療用装具は保険者判断で必要性があれば期間内でも作り変えができる。
全体のまとめ
- 制度の基本線:装具を「新規に作る」時は、原則 治療用 →(必要に応じて)更生用 の順で使い分ける。
- 介護保険との関係:義肢装具と介護保険は別制度。介護保険は福祉用具の領域で、装具や義肢の費用負担には使わない。
- 名称の違いは“支払い制度”の違い:装具そのものが変わるのではなく、どの制度で費用をまかなうかで「治療用/更生用」の呼び名が変わる。
- お金の流れの要点:
- 治療用=償還払い(一旦10割→後日戻る)
- 更生用=代理受領(原則1割のみ支払い/上限あり)
- 治療用=償還払い(一旦10割→後日戻る)
- 制度の優先順位:労災・医療保険・自賠責など「治療系」→ その後に障害者総合支援法(更生用)。いきなり更生用は原則NG。
- 修理・作り変え:原則、最初に作った制度に従う。治療用で作ったなら治療用で修理・作り直し、更生用で作ったなら更生用で継続。
- 労災の特性:労災の中で治療→補償へ移行し、巻き戻し不可。優先して労災制度で完結させる。
- 補助的な制度:子ども医療/難病医療/高額療養費などは、自己負担分の軽減に使える。
- 耐用年数の考え方:更生用は耐用年数が目安。破損・身体状況の変化があれば前倒しの再製作が認められる場合あり。治療用は保険者判断で期間内の作り直しもあり得る。
- 実務のコツ:前回の製作日・使った制度・担当窓口を必ず控えておく。申請の可否や流れが速くなる。
さいごに
補装具費支給制度は「治療用と更生用の違い」「どの制度を使うか」「お金の流れと優先順位」を押さえておけば、大きく迷うことはありません。
ただ実際の現場では「介護保険と混同してしまう」「生活保護ならすべて無料と思われる」といった誤解や、申請の段階でつまずくケースも少なくありません。
今回の記事では制度の全体像から修理・作り変え、具体的なケースまで整理して紹介しました。
制度の細かい運用や申請の流れは自治体や保険者ごとに違うため、実際の利用にあたっては医師や義肢装具士、市町村窓口に確認することが大切です。
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免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としたものであり、制度の詳細な運用は自治体や関係機関によって異なります。実際の申請・利用にあたっては、必ず医師・義肢装具士・市町村窓口に確認してください。



